10 敵
10 敵
私の青春は、暗闇の雷雨でしかなかった、
そこかしこ、輝く日光によって貫かれていたが。
雷と雨が大損害を生じさせた、
私の庭に残っているのは、ごく少数の赤い実だ。
さて私は思想の秋にかかわってしまっている、
それなのに、洪水が墓のように大きな穴々を掘り
その水につかった土地を、シャベルと熊手を使って
新たにまとめなければならない。
そして誰が知ろう、私の夢見る新しい花々が
砂浜のように洗われたこの土壌のなかに
それらの活力となる神秘の糧を見出すかどうかを。
―オー苦痛!オー苦痛! 「時」は生命を食べている、
しかもその難解な「敵」は、われらの心臓をかじり、
われらの失う血で、増大し強固になる!
2015-07-01 01:46
11 不運
11 不運
これほどの重荷を持ち上げるには、
シシュフォス、きみの元気が必要だろう!
仕事に精を出す気はあるにもかかわらず、
「芸術」は長く、「時」は短い。
名高い墓から遠く離れ、
人里離れた墓地に向かって、
私の心臓は、かすかな太鼓のように、
しだいに葬送行進曲を打ち鳴らしている。
―多くの宝石は埋もれて眠っている、
暗闇と忘却のなかで、
つるはしとボーリング機からはるかに離れて。
多くの花は心ならずも
秘密のような甘いその香りを放っている、
深い孤独のなかで。
2015-07-02 18:40
12 前世
12 前世
私は壮大な柱廊の下に長い間住んだ、
海のいくつもの太陽は、そこを幾千もの火で染めていた、
その大きな列柱は、垂直にして壮大で、
夕方、そこを玄武岩の洞窟のようにしていた。
波のうねりが、天の像を映して巻き込みながら、
荘厳で神秘の仕方で混ぜていたのは、
その豊かな音楽の、全能の響きと
私の目に映った夕日の色。
そこなのだ、私が穏やかな逸楽に生きたのは、
碧空、波々、壮麗さの真ん中で、
香りがしみこんだ裸の奴隷たちに囲まれて。
彼らは棕櫚の葉で私の額を涼しくしていた、
そして唯一の心配りは、私を憔悴させていた
苦悩の秘密を掘り下げることだった。
2015-07-03 09:22
13 旅するボヘミアン
13 旅するボヘミアン
預言者の種族は、燃える瞳で
昨日街道に身を移した、幼児を背負い、
あるいは、そのすばらしい食欲に
いつも用意のできた宝、垂れた乳房をゆだねながら。
その男たちは輝く武器の下を歩いて行く、
彼らの家族が身を寄せる荷車に沿って。
消えた空想の陰気な後悔によって
重くされた目を空に向かって巡らせながら。
砂の多い砦の奥から、コオロギは、
彼らが通過するのを見ながら、その歌声を倍加している。
彼らを愛する大地の女神キュベレは、彼女の緑を茂らせ、
岩山から清水を流し、砂漠を花で飾らせる、
その旅人たちの前で。彼らに開かれているのは
未来の暗闇の、いつもの世界。
2015-07-04 21:39
14 人間と海
14 人間と海
自由な人間、いつまでも君は海をいとおしむだろう!
海は君の鏡だ。その波の限りない逆巻きのなかに
君は自分の魂を凝視する。
そして君の精神は、苦さで劣らずの深淵だ。
君は好んで自分の心象の胸中に飛びこむ。
君は両目と両腕でそれを抱き、君の心は
その自分のざわめきから時には気をそらす、
不屈で野生のその嘆き声を聞いて。
君ら、君と海ともどもは、暗く控えめだ。
人間、誰も君の深淵の深さを計測しなかった、
オー海、誰も君の内奥の富を知らないでいた、
君らが自分の秘密を守るのに執着しているからだ!
しかしながら数え切れない世紀の間、
君らは哀れみも悔いもなく、君らと戦っている、
それほど君らは、殺戮と死を愛している、
オー永遠の闘士たち、オー容赦ない兄弟たち!
2015-07-05 18:39
15 冥府のドン ファン
15 冥府のドン ファン
ドン ファンが地下の川の方へ降り、
渡し守カロンに硬貨を与えた時、
ある陰気な乞食は、アンティステネスのような荒々しい
目をして、復讐の強い手で、それぞれの櫂をつかんだ。
垂れた乳房を見せ、服の前をはだけて、
女たちは黒い天空の下で身をくねらせていた、
それも、ささげられた生贄の大群のようにして、
彼の後ろで、牛の長いうなり声を彼女らは引きずっていた。
スガナレルは笑いながら給金を請求していた、
ドン ルイスは震える指で
岸辺にさまよう全ての死者らに、
自分の白髪頭を冷やかした大胆な息子をさし示したときに。
喪服の下で震えながら、貞節でやせたエルヴィールは、
背信の夫で過去に彼女の恋人だった男の近くで、
最高のほほ笑みを彼に求めているようだった、
それは彼の初めての誓いの優しさが輝いていたが。
甲冑姿で直立した、背の高い石の男は、
舵をもち、黒い流れを切っていた。
だが静かな英雄は、長剣にもたれ、
その航跡を眺め、何ものにも目をやろうとしないでいた。
2015-07-06 11:25
16 傲慢の罰
16 傲慢の罰
あの驚くべき時代に、それは「神学」が
最も活気と精力にあふれ、花開いたときだが、
人の話によれば、飛びぬけて偉大な博士がある日
― 無関心な人々の心をこじ開け、
暗い奥底のなかの彼らを感動させた後で、
純粋な「精霊たち」だけがたぶん来ていた
特異で彼自身知らない道を
天の栄光に向かって踏み越えた後で、―
あまりにも高く登った男のように、パニックに陥り、
悪魔の慢心に我を忘れ、叫んだということだ。
≪イエス、ちっちゃいイエス! 君を大いに高く推したぞ!
だが、もし私が君の鎧のすき間に刃向かう気だったなら、
君の恥は君の栄光と同等に位置するだろう、
そして君はもう笑うべき胎児にしか過ぎないだろう!≫
直ちに彼の理性は無くなった。
その太陽の輝きはヴェールをかけたように曇った。
すべてのカオスが循環した。その知性、
昔となった生ける伽藍のなかで。それは秩序と豪奢に
満ち、その天井の下で彼には多大な栄誉となっていた。
沈黙と夜が彼のなかに住みついた。
まるで鍵をなくした地下墓所のなかのように。
その時から彼は道にいる獣のようだった。
それも、目が見えず、野原を横切り、
夏冬の区別もつかない彼が出かけた時は、
汚く、無用で、廃物同然の醜さで、
子供たちの楽しみと笑いぐさになっていた。
2015-07-22 14:05
17 美
17 美
私は美しい、オー死すべき人間たち! 石の夢のように、
そして私の胸は、各人がかわるがわる傷ついたところで、
永遠で無言の愛を物質のように
詩人に吹き込むために作られている。
私は青空に君臨している。不可解なスフィンクスのように。
私は雪の心を白鳥の白と結びつける。
私は線を動かす運動を嫌悪する。
そして決して私は泣かないし、決して私は笑わない。
詩人たちは、私の偉大な態度を前にして、それは
誇らしいモニュメントから借りたかに見えるが、
厳しい研究に彼らの日々を使い尽くすだろう。
なぜなら私は、それらの素直な恋人たちを魅了するために、
万物をより美しくする澄んだ鏡をもっているから。
私の目、永遠の光をもつ私の大きな目!
2015-07-23 17:34
18 理想
18 理想
決して挿絵にあるそれらの美女たちではないのだ、
傷んだ商品、ろくでなしの世紀に生まれていて、
編上靴をはいたそれらの足、カスタネットをもった指
でもないのだ、私の心のような心を満足させ得るものは。
私は施療院にいる美女たちのさえずっている群れを
萎黄病の詩人、ガヴァルニに任せる。
なぜなら私は、それらの青ざめたバラたちのなかに
私の理想の赤に似た花を見出し得ないからだ。
深淵のように底深いこの心に必要なのは、
あなただ、マクベス夫人、罪に強力な魂、
烈風の気候に花咲いたアイスキュロスの夢。
あるいは君だ、偉大な「夜」、ミケランジェロの娘、
奇妙なポーズで穏やかに
巨人族の口にあう胸をよじっている!
2015-07-26 10:46